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共通番号と管理社会に“NO”

市民シンポジウムを横浜で開催

11月12日(土)、神奈川歯科大学附属横浜研修センター・横浜クリニック7階大会議室において、「共通番号制の問題を考える市民シンポジウム」が 開催されました。神奈川県保険医協会が主催し、日本弁護士連合会をはじめ神奈川県医師会、当協会など24団体が後援しました。

冒頭で「番号大綱を紐解く」として、共通番号制度とは何かについて、知念哲氏(神奈川県保険医協会事務局主幹)が解説。共通番号制度がどこから 出てきたのかについて、知念氏は、「2003年に希望する国民に住民基本台帳カードが交付されたが2010年3月末現在で普及率3・5%にとどまり、国民総背 番号として活用したい側からは評判が悪い。そのため、より自由かつ広範に利用できる新たな番号制度の導入が議論されることになった」と述べました。

政権交代後も番号構想は事実上継承され、今年の6月に「番号大綱」が閣議決定。来年の通常国会に法案提出、2015年1月には社会保障分野や税務分野 のうち可能な範囲で利用開始とする予定となっていることが報告されました。

続いて、弁護士、税理士、医師の立場でパネリストより話題の提供がありました(下記)。その他、パネルディスカッションやフロントからの発言が 行われ、共通番号制度の問題点が浮き彫りとされました。フロントからは、各地で開催されている番号制度シンポジウムに参加しているという弁護士から、 「国が主催するシンポのパネリストが共通番号制自体を理解せず発言している」「いまや共通番号制度をめぐる熾烈な利権争いが水面下で行われている」 等の発言がありました。



『プライバシーの権利に抵触』〜法律の視点から〜
彦坂敏之弁護士は、法律の視点からの問題点を指摘。憲法は、国家に権限を与える一方で、国民の人権を保障する二つの側面も持つ。国家の権限を制限するのが 憲法の持つ本質だと指摘した上で、彦坂氏は、国民は生まれながらに人権を有するのであり、私生活をのぞき見されない権利(プライバシーの権利)や自己情報 統制権を持ち、共通カードは、これらの権利に抵触すると発言。また、共通番号制度が利便性、危険性・膨大な費用を要するとの負の面から、共通カードがこれ らの権利を制約するだけの価値があるのかと疑問を投げかけました。


『番号告知が当り前の社会に』〜税分野での問題点〜
住民票コードは本人と行政機関でのみ扱う番号でしたが、共通番号制は民間利用が前提です。所得の捕捉が本当に可能になるのかなど、共通番号が納税者番号として 使われた場合どうなるかについて辻村祥造税理士が発言しました。

政府は共通番号制で社会保障や徴税をより適切に行うことができるといいます。より正確な所得を把握して課税の公平性を保つことができるかについて辻村氏は、 「そもそも番号制は総合合算制上で効果が期待されるのであり、分離課税制度がしかれている日本においては効果が期待できない」「外国での取引については国内に おける番号制のため把握は不可能」「全経済行為を網羅して取引を把握することは困難」と述べました。

「納税者番号(共通番号)」は企業への告知が前提となります。全ての納税者はIC・IDカードを保有(番号の可視化)し必要に応じて提示することになります。 例えば、勤務先に番号の提示が求められ給与などの情報が源泉徴収や年末調整など税金事務の上でこの番号をもとに報告することになります。金融機関に口座を開設す る際にもカードを提示。預金や利子が管理されることになります。また、学校でも納税者番号をもとに管理することも想定されています。

大綱をみるといずれ積極的に情報の民間利用を促していくとの方向性が垣間見られます。民間の情報連携が進む中で新しい個人情報を利用した産業・ビジネスが展開 され、辻村氏は、「果たして現政権が個人情報の活用を制限できるかについては甚だ疑問だ」と述べました。

いろいろな場面で番号告知が義務付けられる社会が当たり前になった場合、管理ができるのか。悪用されるケースも想定され、プライバシー保護のための第三者機関 の設置ですむのか。政府の政策目標(「社会保障と税の一体改革」)である年金一元化、給付付き税額控除、歳入庁の設置などが実現困難な一方で、共通番号制度の導入 だけが進んでいくと行政側にメリットとなるインフラのみが整っていく恐れがあり、辻村氏は、共通番号を汎用した完全なデータ監視社会になるのではないかと発言しま した。


『経済界主導の医療・社会保障の給付抑制策が強化』〜医療における問題点〜
神奈川県保険医協会の池川明理事長は、医療・社会保障分野での「共通番号制」の問題点について、社会保障個人会計の危険性などを訴えました。

政府が主張する「総合合算制度(仮称)」は、各種保険の納付・給付、納税、世帯収入を一元管理。各種社会保障の自己負担額を総合合算、世帯収入に応じて定めた一定 額の超過分を還付するとしています。低所得者対策として共通番号制の『目玉』と位置付けています。しかし、制度設計は経団連・経済界が古くから熱望する「社会保障個人 会計」と同じであり、まさに経済界主導の医療・社会保障の給付抑制策が強化されると池川氏は警鐘を鳴らしました。

また、番号制は「医療IT戦略」が既定路線であり「管理医療」が現実のものとなります。総務省は、電子カルテ等の一元管理と共有「地域医療情報連携」(EHR)、 医療情報のビジネス活用「どこでもMY病院構想」(PHR)を「日本版EHR」として本格的に検討を開始。カルテ以上の医療・健康情報が広範に管理活用されることになり、 自己の医療・健康情報に基づいて治療を受けられる、災害時に役立つ等と政府は主張します。

これに対し池川氏は、「自己責任論の拡大で社会保障の概念が『自助』優先に歪曲化される」「情報漏洩のリスクの拡大」等を問題点として挙げました。災害時に役立つかに ついては、「災害時に電気、通信等のインフラが使えない、そもそもカード自体を避難先に持っていくことができなければ情報を一元管理したところで活用できない」としました。

「管理医療」構築が真にねらうところは、公と民のコンビネーション医療であり、公的医療の範囲は狭く、自費は「松・竹・梅」医療で民間保険シェア拡大へとつながり、映画 「シッコ」の医療・社会保障が日本でも現実のものとなると池川氏は述べました。

また、神奈川県保険医協会が強力に運動し阻止した「診療報酬オンライン請求義務化」についても番号制で再燃の可能性もあります。オンライン化で保険証IC化により正確な リアルタイムな資格の確認ができるなどメリットを政府は主張します。しかしオンライン化が誘導・強要されると、カードリーダー、ネット回線の敷設などの費用は医療機関が負担 するものでIT化に対応できない医療機関は廃業を余儀なくされます。

写真は、当日配布された日本弁護士連合会が発行した『社会保障・税に関わる共通番号制度の問題点Q&A』です。



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