まず腹痛に対する重要な漢方薬を、芍薬・甘草の薬理作用とともに示しました。芍薬・甘草に加え大棗(タイソウ・ナツメの実)などが共同で作用する『桂枝加芍薬湯』『小建中湯』は「腸管の過緊張・攣縮による腹痛」を改善します。(図1)(図2)(写真a)
下痢の場合『五苓散』をよく使います(図3)。その目的は、下痢止めではなく、腸管から水の吸収を促進させる薬効を期待することです。嘔吐と下痢が同時におきる時にも使えます。
一方、消化器系の働きが弱い人の下痢に効果的なのは人参湯です(図4)。
嘔吐の漢方薬としては『五苓散』の他に、鎮吐的に働くことで有名な方剤『小半夏加茯苓湯』があります(図5)。漢方が滅亡寸前の時代に、野津猛男という西洋医は『臨床漢法醫典』(大正4年初版)を著わして、この方剤で一命を取り留めたエピソードを載せました。(写真b)
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(写真a) 江戸末期の漢方医の庭にあるナツメの樹。塩谷町指定天然記念物。樹齢3百年とも。 |
(写真b) 小半夏加茯苓湯の薬効に自ら驚き漢方を学んだ西洋医の著作「臨床漢方醫典」の広告が載っている。大正5年の「日本内科学会雑誌」 |
次に、「歯科で使える漢方薬」として7種類を紹介しました。
口渇に使える方剤には潤すタイプの『白虎加人参湯』があります。また、水分の偏りを補正する『五苓散』が用いられる場合もあります(図6)。
ところで、「潤す」という考え方は「排除」するか「補う」か、「温める」か「冷やす」か等々、漢方独特の考え方です(図7)。
口内炎には、よく似た方剤である『半夏瀉心湯』『黄連湯』を使うタイプと『茵?蒿湯』を使うタイプがあります(図8)。
歯周病には『排膿散及湯』が用いられます(図9)。主薬の桔梗はマクロファージを活性化することで知られています。この方剤は抗菌的ではなく、広い意味での免疫力を強化する薬方と言えると思います。
歯痛には『立効散』が使われます(図10)。表面麻酔的作用もあるといわれ、普通に服用するよりも口の中でけっこう長い時間グジュグジュする方が効果的であるということです。
以上の話をパワーポイントで行いましたが、ご参加された会員の先生方とのディスカッションで、よりテーマが深められたことは講師役としても勉強になり嬉しいことでした。(戸村光宏)
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