私の病院は、190床で整形外科や外科があり、急性期医療もやっています。3年くらい前に190床のうち60床を療養病棟にし、今年は整形外科を廃止。さらに来年は療養病棟を100床にして、採算があわないため外科の廃止も考えています。
病院経営は毎年4〜5千万円の赤字
180日超入院では、患者さんに特定療養費として15%分の負担をお願いしていますが、わずかな国民年金では負担できないという人が増えてきています。病院としては毎年4〜5千万円の赤字を出しており、介護の部分でなんとかバランスが取れている状況。
介護も今後は厳しくなるので、病院側でリストラを考えなくてはいけないというのはそういう状況から起こっています。
医科においては、医療機関の規模や医療内容によって、特定療養費への依存割合やその影響度合は大きく異なります。全く特定療養費に依存しない医療機関から、日常の医療活動の変更を余儀なくされる位大きな影響を被る医療機関まで幅広い。当然特定療養費への関心や評価が異なります。今回は「特定療養費の拡大」が日本の医療制度の根幹に関わる制度改革であるという立場で発言します。
特定療養費の拡大で国民皆保険崩壊の危機
1970年代後半に差額ベッドがたいへんな社会問題となり、放置できない問題として、1984年に特別の療養環境の提供として特定療養費制度が導入されました。特定療養費制度は言うまでもなく現物給付の原則に反しており、混合診療そのものです。また、特定療養費の拡大は、医療の周辺部分から医療の本体に及んでおり、まさに国民皆保険制度は崩壊の危機に瀕しています。
特定療養費では、保険外(自費)診療部分については届出が必要であり、価格についても監視を行うことができて、その診療内容についての有効性や危険性も検証することができます。その運用については今後の我々の運動や国民世論によるところだと思います。
特定療養費制度は一定の規制下にある「限定した混合診療」であると私は理解しており、混合診療全面解禁には、今ある特定療養費制度や今後作られる予定である患者選択同意医療あるいは保険導入検討の制度も含めて廃止する必要があります。
医療のアメリカ化、包括的な混合診療には今の段階では阻止できた
特定療養費制度は今回の拡大により、加持祈祷・呪いの類以外の「医療」と称するものには幅広く対応できることになり、多くの医療機関で大きな影響のある改悪となっています。患者さんが希望すれば一定の合理性が認められれば保険外の部分に放置されている「医療」を特定療養費化できることになり、今までは混合診療として認められていませんでしたので
患者負担が軽減されて良いことだと主張する人たちもいます。
今回の「合意」で私がまず思うのは、「一定水準以上の医療機関への包括的な混合診療は阻止」できたということです。医療の市場化、競争原理の導入、HMO形式といわれる株式会社の参入、人権無視のしかも非効率な
医療などを無条件に認めるような認める医療のアメリカ化、包括的な混合診療については、今の段階では阻止できているのではないかと思います。
保険導入へのシステムが構築できるか
今後は新しい医療(薬剤、医療材料、医療提供体制)は、保険導入を前提として一旦は特定療養費に入れられますが、今回このような制度ができた目的は医療費削減、医療の市場化ですから、そう簡単に特定療養費
から保険導入は行われないでしょう。そうなると実質的な混合診療の拡大となってしまいます。混合診療の拡大を阻止できるかは、保険導入のための合理的で透明性のあるシステムが構築できるかどうかにかかっています。
しかし、今までの流れの中でいいますと、システムの運用を持続的に厳しく監視する医療界内外の大きな力が存在しなければ、結局はそのようなシステムがあっても絵に描いた餅になってしまいます。
医療界全体で一致した行動を
私は、今の流れからすると、おそらく中小病院は淘汰の対象であろうと考えています。今回の「合意」については、大病院や中小病院、診療所などで評価が大きくわかれ、見解がそれぞれ異なっています。それは医療
機関の機能別分化が進展し、それぞれが同じ土俵で医療問題を議論することがたいへん困難になっているからです。医療界は、日本の医療費総枠を拡大するということでは一致団結しておりますけど、そのレベルではなく、
沈むのも浮かび上がるも診療所、病院も一緒だとそれぞれの立場の違いを乗り越え、「運命共同体」として力を合わせて医療界全体で一致した行動をとるべきだと思います。
医療制度崩壊がさらに加速−国民に真実を知らせるべき−
今後の運動をすすめるにあたっては、国民世論の正しい形成と支持が重要です。まだまだマスコミの対応も不十分であり、医療関係団体ももっと国民に真実を知らせるべきです。疲弊した地方では「差額がとれるからおいしいよ」なんてことはありえない話で、患者さんはこれ以上の負担は限界だと私は感じています。
一連の医療改悪の中で、優れた日本の医療制度が崩壊しつつあり、今回の特定療養費によってさらに加速するでしょう。今後は、日本の医療制度を守る国民的「合意」形成が非常に重要だと思います。
この他、斉藤隆義氏は、「国内未承認薬」「制限回数を超える医療行為」「必ずしも高度といえない先進医療」への特定療養費の拡大については、そのまま国民皆保険の崩壊につながると指摘。今後の運動の視点として、立場の異なる多くの医療機関が、それぞれの困難を共有し、文字通り国民皆保険を実現する
ため、そして新しい日本の形を作るため、統一した運動を組織する必要がある」と発言しました。