精神科

睡眠薬について拒食症過食症
初老期うつ病老人性痴呆増えているアルツハイマー型痴呆



睡眠薬について

不眠は最も多い訴えの一つで、人口の20%以上が何らかの不眠に悩まされているといわれています。年令が高くなるほど、またストレスの度合の多 い生活をしているほど不眠の割合は高くなっています。

不眠のタイプを大きく四つに分けることができます。即ち、なかなか寝付けない、夜中に目が覚めしてしまう、早く目を覚ましてしまう、熟睡感がないなどの4タイプがあ ります。老人の場合は夜中に目を覚ましたあと眠れなくなってしまうタイプが多いようです。

睡眠ノイローゼというタイプの人では眠っているのに眠っていないと感じたり、8時間眠っていないから睡眠不足だと時間の長さにこだわったりします。

不眠症の治療ということになると、当然、睡眠薬ということになりますが先にあげた不眠のタイプに合わせて薬物の作用時間が短いものや、中間型、 長時間型を使い分けます。不眠の症状をよく理解して的確に薬を選択し、適切に使用することが大切です。

眠りを支配しているのは脳の中の視床下部という所にある睡眠中枢だというふうに考えられています。最近の睡眠薬はベンゾジアゼピン系が主体です。 この薬は脳全体にではなく、睡眠に関係する脳の部位に比較的、選択的に作用します。ですから医師が処方して使っている限り、くせになるとか耐性が できて薬の量がだんだん増えて行くという問題は殆どありません。ただし薬によっては睡眠中に他人に起こされたことや、寝る前の記憶がなかったりす る場合があります。そんな時には薬の種類を変えてもらうことも必要です。

うつ病やノイローゼなどの症状として不眠が現れている時には、もとになる病気の治療が必要なことは言うまでもありません。生活のリズムを保つこと、 適度に体を動かすことにも気をつけましょう。




拒食症

拒食症は神経性食欲不振症とか思春期やせ症などとも言われています。多くは思春期から青年期にかけての未婚の女性に見られます。心理的な原因に よって起こり、その経過にも精神的な要因が大きく関係します。心理的には次のような特徴があります。

即ち、肥満に対する強い恐怖があり、体重が減少してミイラの様になっても食べられない。やせ細った状態でもまだ肥り過 ぎたと考えてやせる努力をする。ひどくやせた身体を美しいとする美的な価値判断のゆがみがあり、やせたいという願望が強いなどです。

治療に当たっては先ず身体的な病気、とくに脳腫瘍とかシモンズ病でないかよく注意する必要があります。

また貧血とか血清の電解の異常などにも気をつけることが大切です。しかし患者さんの身体症状にとらわれるだけではなく、症状を生む背後の 心理、家庭環境、親子関係、生まれてからの生活、社会生活への適応状況などに注目して、現在の病状との関連性について検討する必要があります。

患者は一般に他動性を示して、たえず掃除や運動をしてますますやせようとするので安静にねかせるようにします。そしてこの安静状態を自分の病状や 治療についての必要性について考えさせる機会とします。

患者さんに検査結果や病気について説明し、病気について理解させるようにつとめます。つまり単なる身体の病気ではなく、心が深く関係しており、 従って心理面の治療、つまり精神療法やカウンセリングが必要であることを理解させます。

一般的には治療に抵抗する例がかなりあるのであなどれない病気です。




過食症

拒食症とはまるっきり反対ですが、基本的には同じものと考えて良いでしょう。

事実、過食症の大半は過去に拒食症的な状態におちいったことがあります。そして過食症であっても拒食症ほどは強くないにしてもやせたいという 願望、肥満恐怖といった心理的特徴をもっています。

中心的な症状は気晴らし食いで、この摂取パターンは、意志に反した自分でコントロール出来ない食欲がおこり、いったん食べ出すと止まらず、短時 間のうちに大量の食品を食べてしまいます。その後に抑うつ的になったり、自己非難的になるなどの特徴があります。

患者さんは過食を行いながらも一般には、肥満でもやせているわけでもありません。大量に食べたあと嘔吐とか下痢によって肥満を抑えようとして、 食べたい欲求とやせたい欲求の両者を満たしています。

これらの心理が形づくられる要因としては、社会的にやせていることを美しいとする一般通念があること、患者さんは若い女性であって身体的には成熟が、 また心理的自立が要求される時期であること、生育時の親の過保護、過干渉に基づく自立の障害、さらには否定的な母親像の逸脱行為を来すこともあります。

抑うつ状態のために自殺を企てることもあり、またよく盗みぐせがみられたり、睡眠障害が現れたりします。

治療としては精神療法、カウンセリングが主体なのは拒食症と同じですが、その他に精神安定剤であるトランキライザーや抗うつ剤を用います。

自殺などの恐れがあったり、症状が強いため外来でてこづる場合には入院も必要です。家族が過食症の病気の状態やその心理を理解し協力していくことが大切です。




初老期うつ病

初老期うつ病は、従来、更年期うつ病とか退行期うつ病といわれていたものとほぼ同様であると考えて良いでしょう。

気分は悪く沈みがちで、従来もっていた活動力が低下し、考えも頭にすらすら浮かばなくなり、睡眠障害、食欲の低下、頭痛、肩こり、口渇、便秘などの自律神経の障害が認められます。

考えが悲観的となり、悪いことは自分の責任だと考えたりします。そして多くの患者が自殺を望むようになり、時に自殺を企てたりするのでうつ病の場合に一番注意しなければならないことです。

初老期うつ病の特徴としては、不安、焦燥感が強いものが多いということです。居ても立ってもいられないでうろうろと歩き回ったり、身体をか きむしったりすることがあります。また妄想が出易く、自分が不治の病気だとか、罪をおかしたとか、貧困状態に陥ってしまったとか又は被害妄想を訴えることもあります。

時には頭が痛い、胃の調子が悪いといった身体の具合の悪さだけが前面に立って、精神的な症状が隠されている仮面うつ病と呼ばれるタイプであらわ れることもあります。軽症の場合には笑顔を見せながら不安や苦痛を訴えることもあるので見落とさないようにすることが大切です。また、痴呆症に似た状態があらわれることもあります。

中高年からのうつ病では、環境や身体的な変化が要因となって発病することが多いので、身内の人の死亡、病気、家・財産の喪失、退職、引越し、ペットの喪失などが引金になることがあります。

治療として抗うつ剤の使用が主体となりますのが、高血圧の薬物との相互作用を考慮することが必要です。中高年のうつ病は重症で比較的治りにくいものが多く、また、自殺の確率が高いので、早く的確な治療をすることが必要 です。




老人性痴呆

2010年頃に日本の人口の約4分の1が、65才以上の高齢者になると言われています。

それに従って老人性痴呆の患者さんの数も増えてきています。年齢と共に痴呆の患者さんの数は増え、65才から70才までは約1.5%のものが、85才以上になると20%以上がぼけ症状をもつことになります。

老人性痴呆、すなわちぼけの症状が認められるようになる原因はいろいろありますが、大きなものは2つあります。

1つは脳の血管性痴呆と言われるもので、脳出血や脳梗塞の後遺症として発病してくるもの。

そしてもう1つはアルツハイマー型痴呆と言われるもので、原因はまだはっきり分かっていません。この2つの型だけで痴呆全体の90%を占め、それぞれ約45%ぐらいとなっていますが、最近ではアルツハイマー型の割合が少しづつ増える傾向にあります。

年を取ると、人の名前がなかなか出ないなどということはよくあることです。痴呆になっても、軽度の場合は、通常の家庭内の行動や会話はほぼ普通です。ただ物事に対する興味や関心が乏しくなるとか、話題が乏しく、同じ 事を繰り返し話したり、尋ねたり、今までできた家事や買い物などでミスが目立ったりするようになってきます。

だんだん病気が進行しますと、慣れない状況で場所を間違えたり、道に迷ったり、同じ物を何回も買い込むとか、お金に関する管理に問題が出てきたりします。更に痴呆が重度になると、さっきした食事を忘れたり、家族と他人 の区別もつかないなどと言った症状が見られるようになります。

痴呆を判断するテストはいろいろありますが、長谷川式テストが簡単で要を得ているので、最も良く使われています。一度テストを受けて、現在の症 状がどの程度かを知っておくことが必要でしょう。




増えているアルツハイマー型痴呆

痴呆の原因となる病気は何十種類もありますが、主な病気としてはアルツハイマー型痴呆と脳血管性痴呆の二つがあります。有病率は、日本では脳血管性痴呆の方が高いようですが、今後は日本でも欧米のようにアルツハイマー型の痴呆が増加することが予想されます。今日は、アルツハイマー型痴呆に ついてお話します。

アルツハイマー型痴呆は女性に多く発病し、初老期型と老年期型に分けられ、初老期型は40〜65才に発病し、まれには40才以前に発病するものもあります。 一方、老年期型は65才以降に発病し年齢とともに増加します。 中心、症状は進行性痴呆で多くの場合、次第に古い記憶も障害されます。そして、徐々に時、時間についての失見当識が加わり、知識の低下・排個・幻想・せん妄・妄想・尿便失禁・便をもてあそぶ・なんでも口に入れるなどの問題行動が起こってきます。若く発病した初老型の患者さんほど、急激に進 行していくことが多いようです。ちょっとした物忘れから始まり、やがて日常会話や意思の疎通が難しくなり、最終的には一日中介護が必要な状態になってしまいます。

さて、私たちの脳には約140億個の神経細胞があり、これらの働きによって高度な知的活動を行っています。アルツハイマー型痴呆は、その細胞が急激に多量に脱落し、その結果、脳が萎縮してしまい痴呆症状が現れます。

今後、原因・治療法も確立されることが期待されますが、まだ時間がかかると思われます。治療法が確立されてないため、介護する人に多大な負担がかかり、介護する人の苦労は並大抵のことではなく、つい怒ったり叱ったりすることもあるでしょうが、暖かい愛情と忍耐と寛容の精神で患者さんを気 長に見守って欲しいと思います。