開業医宣言


保団連の医療に対する基本姿勢

この宣言は、全国保険医団体連合会(保団連)が、

これからの医療をより良くする決意をあらわすものとして、

4年間の討議を経て第27回総会(1989年)で採択し、

第36回大会(1998年)で「5.診療の記録」を修正したものです。

安心して医療を受けられるようにするためにはどうすればよいか。

患者・住民の皆さんと何をすべきなのか。

こうした対話の広がることを心から念願しています。



前文

わが国の開業医は第一線医療の担い手として、長年にわたり地域住民の医療に貢献してきた。

いま日本人の平均寿命は大きく延びてきたが、一方、国民生活をとりまく経済、労働、環境などの急激な変化とその歪みは、 成人病の増加はもとよりかつては見られなかった心身の疾患をも生み出し、子どもから老人に至るまですべての世代を通じて、 健康に対する関心と不安が増大している。

こうした中で開業医師、歯科医師のあり方も問い直され、日常の診断に責任を持つことはもとより、疾病の予防から環境の 改善などに至るまでその専門的知識、技術による幅広い対応がつよく求められている。

同時に近代民主主義の主権在民、人権尊重の思想は、医療における人間関係、医学の進歩と医療の倫理など新しい課題をも 提起している。

これらの期待と要望に応えるためには、患者・住民の求めるところを深く理解し、常に新しい医学・医術を研鑽して、自ら の医療活動を省み想像する開業医の姿勢と努力が不可欠である。

また、わが国は「経済大国」といわれながら、その力が国民には還元されず、逆に国民の努力により築き上げられてきた 社会保障が、軍事予算拡大やいわゆる「民活路線」の陰で次々に後退させられている。さらに現在、地球的規模での環境破壊 や核兵器の脅威など、人類の生存すら危ぶまれる状況も存在している。

私たちはこれらの現実に立ち向かいつつ、21世紀の医療を担う開業医像をめざして、次の通り宣言する。




1.全人的医療

私たちは個々の疾患を重視するのみならず、
患者の心身の状態、家族、生活環境にも気を配り、全人的医療に努力する。


2.対話の重視

医療は患者と医師の信頼にもとづく共同の行為である。
患者の立場を尊重した対話によって、患者自らが最良の選択を行えるよう、
医師は患者に必要な情報や専門的知識、技術を提供する。


3.地域医療

私たちは住民の身近な存在として、日常診療に責任を持つと同時に、
地域の保健、予防、リハビリテーション、福祉、環境、公害問題等についても積極的な役割を果たす。


4.医療機関等の連携

私たちは最も適切な医療を行うため、診療機能の交流を通じ他の医師、医療機関等との円滑な連携に努める。
同時に他の医療・福祉従事者の役割を重視し、患者を中心とした緊密な協力関係を保つよう努力する。


5.診療の記録

診療の正確な記録は医師の重要な責務である。
療養等に必要な情報の提供に日常的に努めるとともに、患者からの診療情報提供の求めに誠実に応ずる。
診療情報の提供に際しては、医師の守秘義務を遵守し、患者の秘密と人権を守る。


6.生涯研修

私たちは患者、住民が最高の医学的成果を受けられるよう
常に医学・医術および周辺学術の自主的な研鑽に努め、 第一線医療・医学の創造、実践、発展をめざす。


7.自浄努力

私たちは、患者や地域住民の信頼を失うような医療行為を厳に戒める。
また常に他の批判に耐える医療を心がけ、医療内容の自己および相互検討を行うよう努力する。


8.社会保障

医療を資本の利潤追求の市場に委ねてはならず、すべての国民が十分な医療・福祉を受けられるよう
社会保障を充実させることは近代国家の責務である。
私たちは国民とともに社会保障を守り、拡充するため努力する。


9.先端技術の監視

科学技術の急速な発達は人類に多くの恩恵をもたらす一方、
その用い方如何によっては生態系の破壊なども懸念される。
私たちは特に人類や地球の未来に影響を与えかねない先端技術に対しては、その動向を監視し、発言する。


10.平和の希求

人命を守る医師はいかなる戦争も容認できない。
私たちは歴史の教訓に学び、憲法の理念を体して平和を脅かす動きに反対し、
核戦争の防止と核兵器廃絶が現代に生きる医師の社会的責任であることを確認する。




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