LESSON13

聴障の医療従事者たちA

先月号で告知致しました琵琶湖病院の医師・藤田保さんの講演についてご報告致します。

医師に従事していた29歳の時に両側性聴神経腫瘍を手術し、失聴した。失聴する可能性があることを承知して手術に臨んだものの、実際に失聴すると世界は一変した。音が全くないのはとても不安で、 例えば講演している会場が静かなのか、うるさいのか、考えつかない。音のない世界に慣れるのに数年かかった。その間、自分が電話をかけている夢を見たこともあった。

失聴後、同僚の医師から子宮ガンの顕微鏡検査の仕事を勧められたが、患者と接する仕事を望み、臨床の仕事を続けた。その中で、ろう者を理解して診療してくれる医師がいない、医療現場ではろう者を 診療できる医師を求めていることを知り、1993年に聴覚障害者外来を開設する。

まずは、病院内でのろう者のバリアフリーを目指す。そのために聴覚障害者問題を深く理解し、来院された方に合ったコミュニケーション手段で対応できる医療スタッフを養成し、マニュアルを作って、 ろう者が安心して適切かつ充分な医療が受けられることを目指した。特に精神医療においては、診療上問診が大変重要な役割を果たしており、ろう者とのコミュニケーション上のトラブルが大きなマイナスの要因となってしまうからだ。

診療科目は、神経科・精神科・内科。週に2回、午後に診察を行っている。

事前予約制とし、初診に60分、再診に30分と患者と向き合いながらゆとりある診療を実施している。患者の多い病院では3分診療ということもあるかも知れないが、時間の確保もバリアフリーには欠かせない。 年間800人の診療であるので、本来なら経営が成り立たない。しかし、島根・東京から通院される患者もあるので、採算の問題は別にして継続している。

(藤田さんは)今は「聴覚障害者の医療に関心をもつ医療関係者のネットワーク」と「聴覚障害を持つ医療従事者の会」の二本建てでネットワークづくりに力を入れられている。

お話の内容を一部抜粋しました。講演会の前夜に懇親会があり、直に講師とお話をする機会がありました。「ろう者は医者と手話で話すだけで治ってしまう。しかし、精神科ではろう者のカウンセリング技術が まだ確立されていないので研究すべきことがたくさんある。」と聞き考えさせられました。

講演の質疑応答の中で、精神科における通訳の留意点のお話がありました。通常の通訳者は患者の言いたいことの内容を把握して伝える場合が多いが、精神科の場合、訳のわからないことを患者が発言したら、 そのまま訳してもらうことが大切とのこと。訳のわからない発言を意訳されてしまうと正確な診察ができないからだそうで、なるほどと感心させられました。

現に、講演会には県内の聞こえない薬剤師・歯科技工士が参加し、先輩の偉業に耳を傾けていました。







ワンポイントレッスン
「体調はどうですか?」の手話表現
体状態
@「体」・・・胸からお腹にかけて
掌を回すことにより、全身を
表す。
A「状態」・・・掌を前に向けた両手
を顔の前で交互に上下させる。目
の前の様子を自分の手で探ってい
る様子。

何〜か?
B「何」・・・人差指を立てて左右に
振る
C「〜か?」・・・眉を上げながら
首を横に傾けると問いかけの表
情になる。


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