「薬局での服薬指導」
「聴覚障害者(ろう者)患者」の状態を把握する第三の場面として薬局をあげたいと思います。
薬局業務は医師・歯科医師の処方せんに基づき患者に薬を調剤することです。その中で最も重要なのは、
患者の薬物療法の有効性や、安全性の確保ではないかと考えられます。薬剤師は患者一人ひとりに対して
薬歴を作成しますが、薬歴は処方せんの内容を写す記録の他に、患者への質問等により得られた患者情報を
記録するという機能を持っています。つまり、薬歴を検討することによって、有効性・安全性をチェックできます。
ですから、薬局窓口においてもろう者患者の情報収集は不可欠です。
では、ろう者が薬局に訪れた時、薬剤師が留意すべきポイントを挙げます。
@患者の訴え
「この薬を飲んだら下痢した」という直接的な訴えや、「最近、なんかやる気が起きない」という漠然とした
訴えも重要な情報であることがあります。また、「錠剤は喉につかえる。粉薬が飲み易い」という訴えもあるかも
しれません。通訳や筆談の手間を押しまずに日常に起きた事にも気配りしましょう。
A服薬歴
今まで処方された薬をどのように服用しているのか、医師とのやり取りで服用方法は理解できているか
確認しましょう。重要なことですから、「朝はどれを飲んでいますか?」と尋ねて、今飲んでいる薬を指で指して
もらうという方法もいいでしょう。
Bアレルギーの有無
以前『問診表』の話で取り上げましたが、ろう者にとって「アレルギー」という単語は理解し難いようです。「薬を
飲んで皮膚にポツポツが出たことあるか?」など実例をあげて尋ねる必要があります。
C妊娠・授乳の有無
医師に妊娠・授乳の事実を伝えているかどうかの確認。もし、妊娠や授乳中であれば、薬物によっては胎児に移行する
ことの説明をしましょう。
Dコンプライアンス(服薬遵守)
薬物の特性上、薬によっては容量や服薬時間を厳密に守らなければならないものがあること。また、長期使用していた
薬を急に使用中止したためにリバウンドとして副作用が現れるものがあること。自己判断で服薬を中断しないこと、
問題があれば早急に医師へ問い合わせる必要があること。薬の効果が十分発揮される為には、患者のコンプライアンスが
非常に重要であること。等々、重ねて説明しましょう。量や時間を守らないとどうなるのか等の具体例は効果的です。
E一般薬(薬局・薬店で購入する薬)の利用や嗜好品
一般薬・健康食品の摂取状況や、飲酒や喫煙などの嗜好品の確認も大切です。
F生活環境
生活環境は副作用と重要な関係があります。例えば、車を長時間運転する仕事の人の場合「眠気を催す」という
副作用のある薬は注意を払わなければならないのです。
G既往歴(病歴)
患者の既往歴や現在の病状を把握するために、「手術の経験ありますか?」「他の病院に行っていますか?」
のように尋ねましょう。副作用発生原因となる肝臓病・腎臓病を持っていないか、体調を尋ねることも必要です。
医師の問診と重複することも多いでしょうが、ろう者が医師に対して遠慮していたり、手話通訳に時間が
かかり十分訴えられなかったりするかもしれません。また、上記で得た情報の中に医療に必要なものがあれば、
医師は報告に耳を傾けて、ろう者により良い医療を受けてもらいましょう。
協力…君島歯科医院薬剤師 君島ゆりか
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