LESSON18

手話通訳者の病気・頸肩腕障害

 手話通訳者の職業病として頸肩腕障害があります。頸肩腕障害とは、以前は電話交換手などに、 現在でもキーパンチャー・速記者などの反復運動を繰り返す職業に患者が多い疾病です。 筋肉を繰り返し使うことで起こる過労性の疾病で、緊張感の持続などの精神的ストレスも関係すると されています。症状は、「肩・腕のだるさ」「布団の上げ下ろしがつらい」等の家事労働への苦痛や、 「スプーンが持てない」等の日常生活への不便さ、自律神経失調症・うつ症状・ノイローゼ等に至るものもあります。 手話通訳者に特徴的なのは精神症状を伴う点です。

 手話通訳は、目で見た手話を頭で音声言語に変えて音声を発して通訳することと、 耳にした音声言語を頭で手話に変え手話表現する行為とを繰り返します。また、通訳は対人労働であり、 他者を結ぶ中で常に緊張が続きます。

 初めて手話通訳者に頸肩腕障害の診断がされたのは昭和50年頃のことです。その後、昭和56年に 札幌労働基準監督署で「手話通訳業務が原因として頸肩腕障害になった」と労災認定されるに至りました。 栃木県では、平成10年に労災認定を受けた足利市の選任手話通訳者の社会復帰を支援する運動が昨年展開され、 18,000人以上の署名が集まった結果、現在リハビリ勤務が開始されて間もなく10ヶ月になろうとしています。

 20年経っても未だに手話通訳者の労災認定が後を絶たない背景には、世間一般に手話通訳者の労働が 理解されていない点があげられます。専任の手話通訳者がいる職場は素晴らしいですが、1人職場のところが多い。 手話通訳は肉体と頭脳の労働であり、1人職場で労働時間中フルに手話を続けることは激務です。 手話通訳1時間に対し回復に約2倍の時間を要すると言われますが、実際には休憩が取れず、代わりがいないという責任感から オーバーワークになったり、体の不調があっても無理したりする傾向があるようです。これらの課題は職場での管理・ 支援・理解なしには解決できません。

 もう1つ、手話通訳者の頸肩腕障害を診断・治療できる医者が少ないという問題があります。知人の 通訳者は県内は専門医がおらず、治療のために東京に通っているとのこと。また、患者自身の報告を読むと、 「何件も医者めぐりをした」という記載がみられ、治療の苦労がうかがえます。

 まず、通訳者自身が自己管理に心掛けて無理をしないこと。また、組織的な健康診断・予防が必要です。 と同時に、1人でも多くの県内の医師に手話通訳をご理解いただくことだと期待しています。



参考文献:「手話通訳者の頸腕情報縮刷版」全国手話通訳問題研究会1995年発行





「明日には熱も下がるでしょう」
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