LESSON23

手話で考える

聴覚障害者(ろう者)への理解を深める上で大切なことは、「手話は言語である」ということです。

ある手話の学習会で一緒になった脳外科の看護師から興味深い話を聞きました。手話通訳者が脳梗塞になり入院、その際、言語野に障害が残った。 彼女は言いたいことは話すよりも手話の方が表しやすいと語ったというのです。音声言語と手話言語では脳の領域が異なるので、健聴者であっても、 こういう事例が起きるのでしょう。

そういえば、ろう者は考え事をしている時に無意識に手話で語っていたり、寝ている時に突然手話で表現したりということがあるそうです。いわゆる 私たち健聴者の独り言や寝言に当たるわけですが、ろう者は手話で考え、まとめて、手話でそれを表している。つまり、言語が異なるということは、意思 伝達方法だけでなくはなく、認識(理解)・思考(発想)やそれらをまとめる方法も手話なのです。

以前まではろう者からのファクシミリを一読して、「ろう者は文章が苦手」と思ったこともあります。しかし、今ではろう者の文章の中に、発声(音声) 言語と手話言語に違いがあるのではないかと、興味深く読んでいます。特徴として、まず、助詞・助動詞は少ない。文法としては間違いが見られる。次に、 主語・述語のつながりが弱い(格が曖昧)。肯定形か疑問形かが曖昧。…というところです。

では、そういった点を手話による会話では何で補っているのか?それは、空間の活用や顔の表情です。音声言語の抑揚にあたるのが手話表現の大小やスピ ードの緩急です。そして、空間の活用や顔の表情です。音声言語の抑揚にあたるのが手話表現の大小やスピードの緩急です。そして、空間(位置)を使って AからBへなどの関係性を示します。肯定文に表情や首の動きを加えて断定文や疑問文にします。感情のこもった手話は、自分の体に密着させたり体を前後 に動かして心情としての好き嫌いを盛り込んだりもします。

手話の特徴をまとめると、感情に直結した主観的な表現は得意であるが、客観的で微妙な表現は不得意です。その手話の特徴が人間形成にも大きく関与 しているのか、私の友人のろう者は素直で大らかな性格といえます。人間関係もシンプルで、先輩後輩の堅苦しさがなく、呼び名も上下関係なくサインネーム (あだ名。その人の特徴や名前・出身地などから作った手話)です。そして私は手話で「先生」と呼ばれています。敬意からというよりも、残念ながらあだ名 がつくほど仲良くなっていないからでしょう。






「マスクで口の動きがみえません」
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