LESSON9

入院に伴う注意点B

 今回は、現役の病院看護師に登場いただきます。大学病院の仕事を通して、聴覚障害者が入院した時どんな点に 配慮しているのか、寄稿いただきました。


 まず患者さんが入院するためには部屋の確保をします。その際に聴覚障害者だからといって個室を 準備していません。事前にわかっていれば個室を優先的に用意する病院もあるようですし、ある聴覚 障害者から「もし入院する事があったら健聴者の中で気を遣いたくないから個室に入りたい」と 聞いたこともあります。しかし、一般の患者さんと同じように本人の希望に合わせても大丈夫だと思います。 他の人とコミュニケーションを取るのが面倒と考える人もいれば、いろいろな人と関わりたいと思う人、 経済的な理由で部屋を選ぶ人などまちまちです。

 次にアナムネを取る際に聴障者特有のポイントは、いつ失聴したのかという点と、家族の中に 他に失聴者がいるかという点を確認することです。つまり、失聴の時期や家族の状況を聞くことで おおよそのコミュニケーション方法がわかります。例えば、日本語を音声言語として獲得した幼児期 以降の失聴であれば日本語を第一言語として使用する場合が多く、それ以前の失聴であれば手話を 使用するケースが多いと考えられます。また、両親や同居している家族がみな健聴者の場合よりも、 家族の中に同じ聴覚障害者がいる場合の方がコミュニケーション方法の中で手話を中心に使う割合が 高くなります。そして、環境や年齢によってコミュニケーション方法が異なることを念頭に、手話、 筆談、口話などの中から正確に伝達できる方法を確認してください。

 入院後は、医師、看護師をはじめ病棟の全スタッフがコミュニケーション方法を確認し合い、 同じ対応が出来るよう努めることが大切です。「伝わらないからいいや」とあきらめてしまうと、 人権を考慮した情報保障はできません。手術がある時期は、重要な事態について伝達ミスがあっては いけませんが、手話通訳を利用するにしてもずっと派遣を頼むというわけにはいきません。それよりも、 事前にコミュニケーション方法や手術に伴う事態を本人・家族・手話通訳者を交えて確認しておくことが 良いでしょう。急変や緊急時に備えて、どんな時に通訳を依頼するのか、誰が依頼するのかなどを決めて おくことも必要です。

 私は聴覚障害者の医療に関わる点で何か困ったことがあれば、栃通研医療班に相談しています。 栃通研医療班は医療従事者・聴覚障害者・手話通訳者のそれぞれの立場での意見をあわせて聴覚障害者 がよりより医療を受けるにはどうしたらよいか考えています。HP(ホームページ)がありますので 是非アクセスしてみてください。
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