秋の屋久島・奄美大島クルーズ

大根田紳(宇都宮市)


 今度のは、横浜港を午後9時の出港とのことで、9月18日の午後3時頃に自宅を出て、午後6時前に大桟橋に到着した。

 乗船したのは午後8時を過ぎていた。午後8時50分から9時10分の間、わずか20分の時間ではあったが、 8階ボートデッキに大勢の船客が集まった。港の建物群がいっせいにライトアップされていた。夜の出港が、イルミネーションで ひときわ見事だった。港の岸壁の人々と船の客たちの間には、暗闇の中でも心温まる交流があったのである。

 そして、この夜景を見ながら、ジャズ演奏に聞き惚れていた。これこそ何とも言えない感じだった。 昔馴染みのテープ・カットもあった。このスペクタル・ショウの後、午後9時から夜食の会が、7階のメインダイニング・ルームで あったので出席した。

 翌19日には、朝食後、8階のメイン・ホールにおいて、午前9時〜10時、オリエンテーションと言って、 船内生活に関する、そして安全に関する案内、寄港地に関する説明の後に、一旦各部屋に戻り、救命胴衣を着けて再集合して、 避難訓練をすることになった。この訓練は、クルーズにはデューティーとなっている。

 この日は、ずっと航海が続いて、台風18号とかの影響があり、太平洋は波高い状態であった。 大型客船パシフィック・ヴィーナスも、その威容は地に落ちてしまった。小舟のように大揺れに揺れた。 この為に妻の方は吐き気をもよおし、遂に嘔吐すること数回、私の方は、昼食後腹痛起こり、とうとう2人とも臥床してしまった。 その為に、晩の船長さんのウェルカム・パーティに欠席となったのは、止むを得ないこととは言え、至極残念であった。

 20日、屋久島・宮之浦入港となる。午前8時であった。昨日までの大荒れの天候は嘘のように良くなって、 上陸にはお誂え向きの好天、僥倖と言うべきかな。


屋久島は九州鹿児島県佐多岬の南方約65kmに浮かぶ、周囲およそ130km、面積約500ku、人口約14,000人の島である。 1993年には、白神山地とともに日本で初めて世界自然遺産に登録された。東シナ海に面した照葉樹林帯「西部林道」は、 島では唯一、車で通行できる世界自然遺産登録エリアである。

 宮之浦新港からバスで約1時間15分のところに、標高1,000m付近に広がる自然休養林のヤクスギランド≠ェある。 私たちは一段となって、この散策コースを慌てず急がず、森林浴を楽しみながら歩いた。

 この島最大の呼び物は、縄文杉≠ナあるが、体力的に、そして日数時間的に無理と判断して、ランドに樹齢数千年の 屋久杉の巨木を眺めることで諦めの境地に入るのだった。縄文には遥かに及び難くとも、見るべき巨木と言えよう。


 9月21日の午前7時に、奄美大島の名瀬に入港した。午前9時に岸壁のバスに乗り、一路島の北部方面へ行った。 奄美大島は鹿児島の南南西約380km、沖縄から28kmの洋上に浮かび、奄美大島、喜界島、徳之島、沖永良部島、 与論島の5つの島々のことを言い、この大島は、全国の離島の中で沖縄本島、新潟県佐渡島に次ぐ大きさである。

 年中温暖な亜熱帯の島で、島内は国内有数の広さを誇るマングローブの原生林や、海は珊瑚礁が美しく、 山にはアマミノクロウサギ、ルリカケスなどの貴重な生物が生息することから、『東洋のガラパゴス』とも呼ばれている。

 私たちは奄美パーク、田中一村美術館を訪れた。画家の田中という名は初めて知った次第で、その生き方―ハウ・トウ・リヴ― には凄味さえ感じられる。このような変革者が、わが栃木県出身であることに一驚を感ずる。しかし、館内の展示美術品から、 彼の洞察の類稀な深さを思い知らされる。英才は不遇なるやと言われる所以でもあろう。

 昼食後、大島紬村で製造工程見学、黒糖焼酎工場での試飲等。そして午後4時半に帰船した。午後5時半から6時までの約30分間、 奄美大島出港歓送イベントが開かれた。その岸壁には名残を惜しむ顔、顔、顔があった。一場の雰囲気は、送られる乗船者のおのおのにも、 心に染みるものがあったのである。出港前のひとときを、ジーンとさせられた。

 22日は19日と同じく終日航海で、船に閉じ込められていた。この日の夕方、私の方は胃の鈍痛を覚え、 夕食はとらずに横になっていた。妻も船酔いが残っていて、夕食に行かず。それでも、午後の早めの時間には、船の8階デッキの ウォーキング・コースになっている場所を6回ぐるっとまわって歩いた。

 23日は最終日であった。朝食は2人とも粥食にした。午後2時に入港となった。船内の色々なイベントには、 ほとんど出席しなかったが、一応午前中に精算を済ませた。

 入港は出港のときの大桟橋ではなく、新港となった。新港埠頭発のバスでJR桜木町駅へ。かくして帰宅午後5時過ぎ。

栃木保険医新聞2010年新年号・投稿