新年おめでとうございます。 21世紀のはじまりの10年は、世紀が新たになったことにふさわしく、世界中の国々の 経済が政治がそして環境が、流動し、激動し続けています。しかし、振り返ってみると、日本で はこの激動がすでに20世紀最晩年のバブル経済とその崩壊以来、際限もなく続いているように 見えます。政治情勢も細川内閣誕生以来、いっときとして安定したためしがないように思えます。 ということは、世紀が新しくなっても、コンピューターの2000年問題と同じく、確とした区切りに なったというわけではなく、単に年号が一つ増えたに過ぎなかったのかもしれません。 しかし、せっかくの世紀の変わり目を経験し、10年を経過した今、新世紀の立ち上がりの状況を 振り返っておくことも、これからの私たちの活動方針を考える上で有意義なことではないかと思います。 保険診療をめぐる21世紀の動きは、国民的人気(当時支持率実に8割)を誇った小泉総理の 『三方一両損』で始まりました。「医療機関は診療報酬の減額で一両の損、患者は自己負担が増えて 一両の損、保険者は一部拠出金が増えて一両の損」というわけです。ところで、本来の『三方一両損』は 奉行の大岡様が自ら一両出しておられるのです。この話を引用するなら奉行である『国』が一両出さな ければならないはずなのです。当時のマスコミは、翌年の保険診療改定が『初のマイナス改訂』となり、 このことが、常に『薬漬け』『検査漬け』『巨額の不正請求』と目の敵にしていた医療機関を直撃する ことを了としたものか、あえてその欺瞞性に触れようとしませんでした。「裁判に不利な証拠は法廷に 出さない」という、最近明らかになりつつある検察の傾向とたいそう似ているような気がします。 その3年後、保険医である私たちにとって由々しき大問題である『混合診療解禁』の答申が規制 改革・民間開放推進会議から出されたことも大きな出来事でした。このときの宮内義彦議長が、保険業界の オリックスのオーナーであり、混合診療ともなれば、個人向けの民間医療保険商品が大いに売れるという、 実にわかりやすい『業界利益誘導的』答申でありましたが、理由は定かではありませんが、マスコミは 建築業界の談合に対するほどの鋭い矛先を向けませんでした。
しかし、協会・保団連をはじめとした医療関係団体の運動によって阻止しましたが、 さらに3年ほどたって、保険適応外の治療を受けたことにより、保険適応部分まで自己負担に なってしまったことを不当と訴えたがん患者の裁判で「混合診療を禁止する法的根拠はない」とする東京 地裁の判決がありました。この前後のメディアの論調や、知らないことをその場の雰囲気で迎合的にコメント するテレビ出演者を覚えておいででしょうか。「一刻も早く混合診療を解禁すべき」という大合唱でした。 しかし以前の欺瞞的規制改革・民間開放推進会議のことを思い出したのか、「一刻も早く保険診療を 認めるべき」という正論が次第に大きくなり、先の裁判も東京高裁では、地裁とは逆の判決となりました。 さて、そうは言っても抗がん剤は高額で、保険診療でさえ一回の窓口支払いが10万円を超えることも しばしばあります。医療の技術が先端科学の粋を極めれば極めるほど高額になることは避けられません。 その一方で、経済不況の折から、現在普通に行われている必要な検査さえ、窓口負担の支払いが大変で 「とりあえず対症療法だけで様子をみてほしい」と要求する患者や、治療を中断してしまう患者もでて きています。このままでは、世界に冠たる国民皆保険制度が有名無実化してしまいます。ここは冷静に 考えなくてはならないところかもしれません。 昨年夏『保険でより良い歯科医療の実現を求める意見書』の採択を県議会、各市町議会に陳情しましたが、 県は『県民の歯および口腔の健康づくり推進条例』を可決しながら、その土台ともいうべき協会の意見書を不採択 としました。医科であれ歯科であれ、保険医療制度がしっかりしたものでなければ、所詮『健康づくり』も絵に 描いた餅となってしまうことは自明の理なのですが、議員各位には理解されなかったようです。国、地方議会の 議員への啓蒙活動と、マスコミ、県民への正しい情報伝達を、私たちは行っていかなくてはならないと痛感しま した。 このような対外的活動も行いますが、栃木県保険医協会は、本年も医療安全など会員向けのいくつかの 講習会や懇談会を計画しております。医科・歯科医療機関の安定した運営に資するよう、今年も頑張っていこうと、 役員、事務局一同張り切っていますので、どうぞよろしくお願いします。 |
栃木保険医新聞2011年新年号・年頭所感 |