スペアナで SSB位相雑音 C/N を測定する |
SpaCN |
あらまし スペアナを用いることで容易に SSB位相雑音 を評価できる.
しかし,これを [dBc/Hz] として,値付けするには少々面倒なことある.
ここでは,掃引方式のスペクトラム・アナライザで雑音電力を測定する場合には,その方式上の補正が必要となることを説明する.
また,スペアナで位相雑音を測定する際に注意すべき点も記す.
■ 1. スペアナで SSB位相雑音 を評価する
写真-1. スペアナでC/Nを観測 |
写真-1. には,ある PLL周波数シンセサイザ の位相雑音 C/N をスペアナで観測したものである.
ここで,オフセット周波数 10KHzでのSSB位相雑音(Single-SideBand Phase Noise)として,片側の側波帯で位相雑音 C/N を評価してみる.
a点は,スペアナの測定帯域幅(RBW)が 300Hzとした場合のオフセット周波数10KHzでのSSB位相雑音で,キャリアから -81dBc程と測定できる.
次に,b点は,同信号で測定帯域幅(RBW)を100Hzとして観測した場合であり,オフセット周波数10KHzでのSSB位相雑音は,キャリアから -84dBcほどと測定できる.
このように,雑音の場合は測定する帯域幅(RBW)によって,その値が変わる. ですから,測定した帯域幅を必ず,明記しなければならない.
ゆえに,異なった帯域幅で測定した位相雑音を比較する場合には,どちらかの値をもう一方の帯域幅での値に換算してから比較することになり,不便である.
それで,1Hzあたりの電力密度 [dBc/Hz] として換算し,SSB位相雑音を定量的に表すことが一般である.
■ 2. スペアナで測定したSSB位相雑音を1Hz換算,値付けする
SSB位相雑音は,スペアナを用いることによって,キャリア信号電力とオフセット周波数 fm における雑音電力の比として容易に観測することはできるが,これを値付けするには少々面倒なことがある.
● スペアナの帯域幅から単純にHz換算すると誤差になる
図-1. スペアナによって測定されたSSB位相雑音 L(fm) |
図-1は,スペアナによって測定された SSB位相雑音 L(fm) を示したものである. ここで L(fm) は,(1)式となる.
L(fm)[dBc] = Pn(fm) - Pc ・・・・ (1)
Pn(fm) : オフセット周波数 fm の傳W 幅雑音電力 [dBm]
Pc : キャリアの電力 [dBm]
L(fm)を 1Hz換算として [dBc/Hz] 単位で表すには,Pn(fm)を1Hz帯域幅雑音電力 [dBm/Hz] とする.
ゆえに,
Pn(fm)[dBc/Hz] = Pn(fm) - 10Log(傳W) ・・・・ (2)
として求められる.
しかし,ここで傳Wの値をスペアナの分解能帯域幅RBW として計算しただけでは,誤差が含まれることになる!
● スペアナで雑音を測定する時には,補正が必要
掃引方式のスペクトラム・アナライザで雑音電力を測定する場合には,その方式上の補正が必要となる.
まず,スペアナの IFフィルタは,高速掃引ができるように ガウシャンフィルタ が用いられている. ゆえに,これを理想短形フィルタの雑音帯域幅に換算,補正する必要が生じる.
図-2. ガウシャンフィルタ 3dB帯域幅と雑音帯域幅の関係 |
正確な補正には,図-2に記すように,スペアナのIFフィルタの面積を計算して,その値と等しくなる理想短形フィルタから雑音帯域幅 BWn を求めることになる.
また,ガウシャンフィルタ 3dB帯域幅 傳W から約20%広くなると近似することもでき,(3)式として表すこともある.
BWn ≒ 1.2×傳W ・・・・ (3)
さらに,スペアナで雑音電力を測定する場合には,ログアンプによる雑音を対数圧縮して測定したときの誤差と,スペアナのデテクタ,検波器は雑音に対して真のRMS値を表示できないので,
これを含めるとスペアナの表示は 約 2.5dB 少なく表示される.
以上のことをまとめると,スペアナにて 1Hzに換算したSSB位相雑音を求めるには,次の(4)式から算出しなければならない.
L(fm)[dBc/Hz] = Pn(fm) - Pc - 10Log(1.2×傳W) + 2.5 ・・・・ (4)
Pn(fm) : オフセット周波数 fm の傳W幅雑音電力 [dBm]
Pc : キャリアの電力 [dBm]
傳W : スペアナのRBW,3dB帯域幅 [Hz]
例えば,キャリアの電力 0dBm で,スペアナ分解能帯域幅 300Hz にて,10KHzオフセットでの雑音電力が -81dBm と測定されると
(写真-1参照),そのSSB位相雑音 L(fm=10KHz)は,次のように求められる.
L(fm=10KHz) = -81[dBm] - 0[dBm] - 10Log(1.2×300[Hz]) + 2.5[dB]
= -104[dBc/Hz]
CPUを搭載している最近のスペアナでは,雑音電力測定モード時には,これらの補正を自動計算してくれるのが,一般仕様となっている.
しかしながら, SSB位相雑音特性を確実に評価するには,これらの測定法を理解しておくことが重要 となる.
(4)式による1Hzの帯域幅に正規化する作業を,SSB位相雑音の [dBc/Hz] 換算 ツール にて提供!
■ 3. スペアナ自身の位相雑音に注意する
スペアナで位相雑音を測定する際,特に低位相雑音を評価する場合には,スペアナ自身の位相雑音が無視できなくなる.
図-3は,スペアナ自身がもつ SSB位相雑音の影響を説明するものである.
青い線 で記したものは,被測定信号の真の位相雑音を示す. そして,緑線 で記したのは,測定するスペアナ自身がもつ位相雑音である.
ここで,スペアナの であると,例えば,オフセット周波数 100KHzのポイントでは 青い線 で記した
被測定信号の真の位相雑音と 緑線 で記したスペアナの位相雑音は等しくなっている.
ゆえに,スペアナで測定されるSSB位相雑音は,これらが足されて オレンジ線 で記した値となり,オフセット周波数 100KHzでは 真値より 3dBほど大きい雑音となる.
そして,スペアナの であれば,ここでは オフセット周波数 100KHzのポイントでの 緑線 で記した
スペアナの位相雑音は,被測定信号の真の位相雑音より,10dBほど小さく,スペアナで測定されるSSB位相雑音は ほとんど誤差なく測定できることになる.
このように,スペアナで SSB位相雑音を測定する場合には,スペアナ自身の局部発振器の位相雑音が足されるかたちとなるので,特に低位相雑音信号を測定するには,注意が必要である.
また,キャリア電力が小さい場合には,今度はスペアナ自身の フロアノイズ,平均雑音レベルで限界が決まるので,正しい測定をするには,こちらににも注意が必要となる.
■ 6. むすび
掃引方式のスペアナで測定した SSB位相雑音 を正しく値付けするには,方式上の補正が必要となることを記した.
また,正確な測定をするには,スペアナ自身の位相雑音が足されることも考慮しなければならない.
最近のスペアナでは,雑音測定における補正をCPU処理し,自動測定するので,多くの技術者がその内容を知らなくなっている.
以前に,若手の技術者が C/N をマニュアル測定をする際に補正をせずに,ただ 1Hz 換算だけしていることを拝見した.
それで,スペアナによる SSB位相雑音測定の基本 を記した. ご参考になれば,幸いである.
また,
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を準備したので,ご活用ください!
URL : http://gate.ruru.ne.jp/rfdn/